アメリカ人に学ぶ働き方改革② – 有休取得をめぐるかけ引き

末永 恵

アメリカ人に学ぶ働き方改革② – 有休取得をめぐるかけ引き

祝日が少ないアメリカ

アメリカは今週末がメモリアルデーウィークエンドで、月曜が祝日の3連休です。メモリアルデーは本来的には戦没者記念日ですが世間一般には夏の始まりとみなされており、家族や友達で集まりバーベキューをして楽しむのが通例です。渋滞は木曜から始まると見られており、以前の記事でも触れた「金曜日はほぼ週末」という傾向が表れていますね。

アメリカにも日本と同じで様々な祝日がありますが、日本と違いその日を休みにするかどうかは企業・学校・銀行・公的サービスなどの各団体に判断が委ねられています。いわゆるナショナルホリデーと呼ばれる9割以上の企業が休みとなる祝日は実は年に6回(元日・メモリアルデー・独立記念日・レイバーデー・感謝祭・クリスマス)しかなく、その他のイースターやキング牧師記念日、州ごとの祝日など、各企業やエリアによって状況が異なります。これは日本の祝日が年に16回あることと比較するとかなり少ないと言えます。ということでアメリカの一般企業で働いている場合、土日以外の休みや連休を取るためには有給休暇の取得が必要になってきます。

 

アメリカ人と有給休暇

リサーチ会社The Harris Pollの最新調査により、一般企業に勤めるアメリカ人のPTO(Paid Time Off = 有給休暇)に関し興味深い結果が出ています。まず1年間で保障される有給休暇の日数は以下のような結果になっています。

<年間で会社から与えられる有給休暇日数>

  • 無し:11%
  • 10日以下:21%(うち43%が低所得層=年収5万ドル以下)
  • 11~20日:34%
  • 21~30日:20%(うち22%が白人アメリカ人)
  • 30日以上:7%
  • 無制限:7%(うち14%がリモートワーク

アメリカ人の有給休暇日数

 

ということで10~30日がボリュームゾーンであることが分かります。そして実際に取得した日数を世帯年収別で見てみると、

  • 世帯年収50,000ドル以下(低所得層):10.2日
  • 世帯年収50,000~99,000ドル(中間層):12.4日
  • 世帯年収100,000ドル以上(高所得層):17.2日

 

となっており、年収が高いほど有休を多く使用しているようです。また有休の過ごし方として多いのは、

  1. バケーション:47%
  2. 病欠・体調不良・病院の予約など:19%
  3. 育児:12%

 

ということでバケーションでの消化が圧倒的なことが伺えます。ちなみに休暇を過ごすのに理想的な場所は以下のような回答になりました。

  1. アメリカ国内のビーチ:37%
  2. アメリカ国内の大都市:19%
  3. 自宅:17%
  4. 海外:13%

 

アメリカは国が広く、文化や雰囲気が州・街によって大きく異なりますので、国内旅行が半数を占めるのも納得です。このようにバケーション好きなアメリカ人ですが、同調査によると78%の会社員は許可された有休日数を使い切っていないということです。これはミレニアル層(現在28~43歳)で83%、Z世代(現在18~27歳)で89%と若い世代ほど多く、ミレニアル層の80%は「本当はできれば全部使い切りたい」と回答しています。それができない背景には一体何があるのでしょう?

 

プレッシャーにさらされるミレニアル層

The Harris Pollの同リサーチによると、現在28~43歳にあたるミレニアル層は他の世代よりも職場におけるプレッシャーを強く感じている傾向が見てとれます。例えば「アメリカでは忙しいことを美徳とする風潮がある」と答えた人の割合は全体平均が85%であるのに対しミレニアル層は89%、「有給休暇を上司に申請するとき憂鬱な気持ちになる」は全体平均が49%に対しミレニアル層は61%、「有休を取ることに罪悪感を感じる」と答えたミレニアル層も平均より高い53%と半数以上にのぼり、有休取得に対して心理的なハードルがあることを示しています。

さらに休暇中の行動についても全体の86%が「有休の日やバケーション中でも上司からのメールをチェックする」と回答、また60%が「休みの日でも完全に仕事から離れるのは難しい」と答えています。アメリカ人というと仕事とプライベートのオンオフをはっきり分けている人が多いと思いきや、これは意外な結果でした。

アメリカ人に学ぶ働き方改革② – 有休取得のかけ引き

 

“クワイエットバケーショニング”とは?

このような職場環境の中、調査で明らかになったのが「従業員が職場に知らせずに休暇を取っている」という実態です。「上司・雇用主に報告せず休みを取ったことがある」という回答は全体で28%にのぼり、正式な有休を使わずに外出・テレワークをしている風を装って実際はこっそり休みを取っている労働者の様子が浮かび上がりました。

この割合の多さは大手メディアでも驚きをもって伝えられ、“Quiet Vacationing(クワイエットバケーショニング:密かな休暇)”と名付けられました。クワイエットバケーショニングの経験者はミレニアル層が37%で全体平均より9ポイント高く、有休取得に心理的ハードルを抱える同世代のジレンマが反映されていると言えます。

クワイエットバケーショニングを実行するコツとも言える“働いている風を装う”方法については「マウスを動かし、会社のコミュニケーションツール(SlackやMicrosoft Teamsなど)のステータスを常に“オン”にする」「メッセージの送信予約時間を勤務時間外に設定し、残業しているように見せる」などが挙げられています。これらを“やったことがある”と回答したのもミレニアル層が最多でした。

 

クワイエットバケーショニングが表すもの

パンデミック中は“クワイエットクイッティング(Quiet Quitting, 静かな退職・仕事にやりがいを求めず最低限の業務だけをこなす働き方)”が話題となりましたが、上司や同僚にばれない程度に業務を放棄するという点はクワイエットバケーショニングも同じで、あまり健全な職場の在り方とは言えません。ただし従業員がそのような心理状況にたどり着くまでには理由があり、クワイエットクイッティングは“燃え尽き症候群”が背景にあったように、クワイエットバケーショニングにも上述したような業務に対する過度なプレッシャーが関連しています。

The Harris Pollの同リサーチでは「会社から有給休暇がもっともらえたら、自分はもっと生産的になれる」と66%が回答しています。クワイエットバケーショニングが表しているのは、ただ単に仕事が嫌でさぼりたいのではなく休暇を通じてワークライフバランスを向上させたいという従業員側の思いと、実際の有休取得を難しくしている雇用側のミスマッチなのかもしれません。