アメリカ人に学ぶ働き方改革① – 半ドン化する金曜日

末永 恵

アメリカ人に学ぶ働き方改革① – 半ドン化する金曜日

アメリカ人の“華金”の働き方

華の金曜日、いわゆる“華金”を表す言葉は英語にもあります。“Thank God It’s Friday”は直訳すると「神さま、金曜日をありがとう」で頭文字をとって“TGIF”と呼ばれ、1週間の労働をねぎらい金曜日を歓迎するフレーズとして職場などで広く使われてきました。

パンデミックが終息しオフィス勤務や通勤による渋滞はほぼほぼ元に戻ったものの、アメリカ人の金曜日の過ごし方には変化が見られます。金曜日と言えば以前は“カジュアルフライデー”と呼ばれる普段よりも少し楽な服装で仕事をするワークトレンドがありましたが、現在この曜日は平日と週末の境にある調整時間のような位置づけになりつつあります。

 

金曜日は定時前に退社

リサーチ会社のActivTrackが北米の816社75,000名を対象に行った調査によると、金曜日の平均退社時間は午後4:03であることが分かりました。これは月曜から木曜の退社時間が同調査ではだいたい午後5:00から6:00の間ということなので、約1時間も早く仕事を切り上げていることになります。同調査によると金曜日の退社時間が早いのは以前からの傾向のようですが、それでも2021年は午後5:00が平均だったことを考えると大きな変化と言えます。

平均退社時間が早まっているとはつまり金曜日の“半ドン化(午後半休)”が進行していると言えます。WFH Researchの今年の調査によると、アメリカのハイブリッド勤務者の50%近くが金曜を在宅ワークにしており、また位置情報技術企業のTomTomによると近年は金曜日の午後早めの交通渋滞が増えているそうです。これはつまり、金曜日を在宅ワークに当てているハイブリッド勤務者が金曜は早めに仕事を切り上げ、午後から週末の余暇に出掛けるという傾向があることが読み取れます。

これにより金曜日の午後はゴーストタウン化するオフィス街が増えているようです。飲食店用の会計プラットフォームを提供するSquareのデータによると、レストラン利用のピークタイムがパンデミック前の2019年は金曜のブランチだったのが、2023年は土曜のブランチにシフトしているとのことです。

 

金曜半休でワークライフバランスの向上

アメリカにはもともと、金曜日は半分週末のようなものであまり一生懸命働かない雰囲気があります(ただし個人・会社によって差があります)。スタンフォード大学の経済学者Nicholas Bloom氏は2022年の調査で、100%オフィス勤務者とハイブリッド勤務者で仕事の生産性にはほぼ差がないと結論付けた上で「金曜のオフィス勤務が生産性を上げることを示す裏付けはないが、労働者を煩わせているという証拠はたくさんある。」と語りました。

会社側もそのような空気を察してか、金曜を他の平日とは異なる扱いとする企業も登場し始めています。インタラクティブ学習プラットフォームを提供するAlbert社の創業者Luke Liu氏は2022年、金曜午後の生産性の低さを考慮し会社全体で金曜午後半休の導入に踏み切りました。「計算上は10%の営業時間損失だ。だが実際の売上への打撃は2~5%程度で、それを超える良い影響があった。」とLiu氏は言います。金曜午後半休を導入したのには従業員のBurnout(=バーンアウト、燃え尽き症候群)を防ぐ目的もあったそうで、実際に従業員は金曜の午後休みを利用して病院の予約を取ったり家の雑用をこなすことができ、通常の勤務時間の生産性を高めるため十分な充電ができているとのことです。また金曜半休の導入以来、退職率も以前と比べ1/5に減少したとのことです。

 

週4日勤務の実現に向けて

現状はアメリカでも日本同様、週休2日制が一般的です。しかし近年はワークライフバランスが重要視されるようになったこと、また雇用主側の義務として鬱や燃え尽き症候群など従業員のメンタルヘルスへの配慮が訴えられるようになったことで、週休3日制=週4日勤務実現への議論が高まっています。「ワークライフバランスの充実は職場におけるパフォーマンス向上に効果的」「週4日勤務でも企業の生産性に大きな影響はない」などの前向きなリサーチ結果はあるものの、ワークフローの再考など実際の導入に向けてはまだまだ高いハードルがあります。

一方でCNNの報道によると、アメリカの大手企業の約3割が週4日または4.5日勤務へのシフトを検討しているとのことです。さらにアメリカ人の77%は週4日勤務を望んでいるというアンケート結果が出ており、労働者側の期待はとても大きいことが分かります。週休3日制実現に向けて、まずは金曜日の時短勤務や午後半休の普及が第一歩になるのかもしれません。