アメリカ小売業ランキングから読み解くウォルマートの“バリュー”戦略

末永 恵

アメリカ小売業ランキングから読み解くウォルマートの“バリュー”戦略

アメリカ小売チェーン売上ランキング

オンラインも実店舗もすべて含めて、世界最大の小売店はどこでしょう?答えはWalmart(ウォルマート)です。
アメリカのNational Retail Federationによると、ウォルマートの昨年2023年のアメリカ国内における売上額は約5,340億ドル(約79兆円)で、これは前年2022年から6.9%の成長でした。2位はAmazonで約2,501億ドル(約37兆円)、3位は日本でもおなじみのコストコ(Costco)で約1,754億ドル(約26兆円)、両社とも前年比7%前後の伸びとなっています。

Top10 US Retailer 2023 COOQIE ブログ

2023年のウォルマートの全世界合計での売上高は6,110億ドルで、こちらもAmazonを抑えて世界1位の売上額となりました。Amazonの登場以来、その躍進ばかりが注目されがちですが、こうしてみるとアメリカ国内でもウォルマートとAmazonでは小売業に関しては2倍以上の差があることが分かります。

 

実店舗で売れるもの・オンラインで売れるもの

Eコマースの世界に限れば、Amazonのシェアは圧倒的です。今年2024年にAmazonのアメリカにおける全Eコマース販売シェアは40%に達すると予想されています。2位はWalmartで近年着実に数字を伸ばしてはいるものの、前述の同社の国内売上5,340億ドルのうちECサイトによる売上は8.2%にとどまっており、Amazonとはまだまだ大きな開きがあります。

Retail Ecommerce Sales COOQIE ブログ

このバランスが数年後にどうなっているかは分かりませんが、一晩のうちに変わるということはなさそうです。と言うのは、リアルな店舗とオンライン店舗で売れるものでは傾向が異なるからです。

signs.comの調査によると、消費者が実店舗で買うことが多いのは「食料品」「トイレットペーパーなどの紙製品」「掃除用品」「ペット用品」など主に日用品。対してオンラインでの購入が多いのは「ギフト」「本やCDなどのメディア」「家電製品」となっており、これはスペースに限りのある実店舗ではバリエーションをそろえることが難しいタイプの商品と言えると思います。

Online-vs.-In-Store COOQIE ブログ
ギフトや家電製品を普通の一般生活者が毎日購入することは考えにくく、日用品のほうが購入頻度・使用額ともに多くなるのが自然で、これがウォルマートとAmazonで2倍以上の差が付いている1つの理由と推測できます。食料品分野についてはAmazonも長年強化を試みていたり、パンデミック下で一時期デリバリーサービスの利用が急増したこともありましたが、コロナ終息移行その勢いは鈍化しています。やはり食料品は自分の目で見て選びたい、という人が多いのかもしれませんね。

 

アメリカ小売業界の巨人Walmart(ウォルマート)

Walmart(ウォルマート)は創業者のSam Walton(サム・ウォルトン)氏により、1962年にアメリカ・アーカンソー州で創業しました。店名”Walmart”は彼の名前に由来しています。1号店は小さな食料品店でしたが、現在は全米に約4,600店舗を展開する米国最大のスーパーマーケットチェーンで、創業店にほど近いアーカンソー州ベントンビル市に本社を置いています。日本最大のスーパーチェーンがイオングループの914店舗ですから、その規模の巨大さが分かりますね。

アメリカでの近年のインフレーションと金利の高止まりを受け、消費者の生活は強い圧迫を受けています。そんな中でもウォルマートが堅調な成長を続けている背景には何があるのでしょう?

それは「買い物客はみんなバリューを求めている。そして我々にはそれがある。」とウォルマートCEOのDoug McMillon氏は語っています。住宅・保険・日用品、生活にまつわるほぼすべてのものが値上がりし、消費者の買い物に向ける目は非常にシビアになっています。6ドルのアイスコーヒーや15ドルのビッグマックセットを気軽に買う感覚ではなくなってきているということです。
このような消費者行動の変化を察知しウォルマートでは今年、商品7,200点を対象に”Rollbacks”と呼ばれる値下げを断行しました。一方で、人々の感覚の変化・消費者心理を読み切れなかったマクドナルドやスターバックスは、前年同時期と比較し減収減益となりました。マクドナルドは最近になって高バリューな5ドルセットを打ち出すなど、対応が後手に回っています。

 

着々と格差が広がるアメリカ

アメリカではコロナ以降、富裕層はより裕福に、低所得層はより生活が苦しくなる二極化が進んでいます。平均所得が上がり続けているように見えるのも、もともと高所得な人の給料がさらに上がるかまたは最低賃金が少しアップするのみで、半数以上を占めるミドルクラス(中間層)以下はこの物価の上昇に対応するため多くのものに対し支出を切り詰めている状態です。

U.S. Consumer Spending Tracker COOQIE ブログ

上記のMorning Consultの調査によると、前年2023年と比較するとほとんどのカテゴリーについて消費が減っていることが分かります。景気の先行きが不透明な状況が続くうちは、支出を控え節約する傾向が当分続くと見られています。ものを作るメーカー側もそれらを売る小売店も、消費者動向を常に観察し流れを読み違えないことが大切です。

 

COOQIEでは米系小売店への販路開拓のための営業代行・売り場サポートを提供しています。アメリカでの販路拡大をご検討の際は、お気軽にご相談ください。