ソーシャル時代への反動?アメリカZ世代に広がるDumbphone(ダムフォン)
初代iPhoneが登場してから今年で17年。最近はAppleが折りたたみ機種を開発していると報じられましたが、スマートフォンは現在も進化を続けておりもはや現代社会と切っても切り離せない存在です。その一方、アメリカでは密かに別のブームが起こっていることをご存じでしょうか?それは“ダムフォン”と呼ばれる、最新技術とは真逆を行く最小機能の携帯電話です。
Dumbphone(ダムフォン)とは?
英語の“dumb”はバカ、アホ、まぬけ、痛い、しょぼい、ダサい、くだらない、時代遅れ、退屈など何か冴えないものを表現するワードです。“退屈な電話”であるダムフォンには、スマートフォンとは異なり非常に限られた機能しか搭載されていません。あるのは通話・テキストメッセージ・アラーム・電卓・カレンダーなどごくベーシックな機能のみで、機種にもよりますがメールやアプリ、WiFi接続を含めインターネットは使えないことが多いようです。ダムフォンは基本的にフィーチャーフォン・ガラケーと同じものです。ただし近年になってあえて作られているこの最小機能携帯電話のことを特にダムフォンと呼んでいます。
ダムフォンでは基本的にアプリが使えないので、ほとんどのスマホユーザーが使っているようなSNSアプリ(Facebook, Instagram, TikTokなど)やメッセージアプリ(LINE, Messenger, WhatsAppなど)は使用できません。このような機能が制限された携帯電話を一体誰が利用しているのか?それは意外にもZ世代です。
Z世代を取り巻くソーシャル疲れ
リサーチ会社Morning Consultの2024年調査によると、アメリカ人成人の10人に1人が家族の誰かがダムフォンを使用していると回答し、「今現在ダムフォンを使用している」と回答したのはZ世代が16%で最多、次いでミレニアル世代となっています。またZ世代の25%がダムフォンに「興味がある」と答え、全体平均の15%を大きく上回っています。
Z世代がダムフォンを求める背景には『ソーシャル疲れ(SNS疲れ)』があると考えられています。Morning Consultのリサーチでは、ダムフォンを購入したのは「ケータイ電話の利用を最小限にしたいから」「スクリーンタイムを制限したいから」がもっとも多い理由でした。中には「ノスタルジックを求めて」という回答もあったようですが、これも広い意味ではスマホ時代への反動と言えるのかもしれません。
スマホやソーシャルメディアが広く普及し始めて20年近くが経過し、それらが人々の生活や人体に及ぼす影響も明らかになってきました。特にソーシャルメディアの利用によりスクリーンタイムが長くなることで、鬱や不安症、睡眠障害、自尊心の低下などさまざまなメンタルヘルスへの悪影響が指摘されています。“常に他人とつながり続ける”プレッシャーを根元から断ち切るためダムフォンにスイッチする『デジタルミニマリズム(Digital Minimalism)』は、ここ数年アメリカで広がりを見せています。
ダムフォン専門キャリアの売上は前年比10倍に
ダムフォンの静かなブームに伴い、付帯サービスを提供するダムフォン専門キャリアも登場し始めています。2022年創業のロサンゼルスの『Dumbwireless』は各種ダムフォン機に加え、データプランやアクセサリーを販売。オーナーのKrigbaumさんとStultsさんによると、Dumbwirelessは今年3月に7万ドル(約1千万円)分以上の商品を出荷。これは1年前の2023年3月に比べると10倍の量で、特に昨年10月頃から売上げが急増しているとのことです。
2人によると人気の機種は、アプリがほとんどないe-ink端末の”Light Phone”、昔懐かしい折りたたみ式の”Nokia 2780″、そして電卓風のスイス製端末”Punkt”だそうです。ちなみにダムフォンはバッテリーが長持ちすることも大きなメリットで、1回の充電で数日から1週間はもつようです。
ソーシャルメディアから離れてデジタルデトックス
スマートフォンをヘビーに利用してきた多くの現代人にとって、ダムフォンへの切り替えは名実ともにダウングレードするようで初めは勇気がいることかもしれません。他方、SNSを離れ誰ともつながらない時間を確保することで、趣味や仕事や勉強などのタスクに集中でき生産性がアップしたり、目の前の家族・友人との会話やオフラインのコミュニケーションを大切にすることで人間関係が充実したり、メンタルヘルスの向上などさまざまな良い影響を期待することができます。
ソーシャルメディアやスマホは便利で楽しいツールですが、使い過ぎることで無意識にプレッシャーが膨らみ心身を疲弊させることになります。分かってはいても、次々に魅力的な機能が登場してくるとスクリーンタイムを自制するのはなかなか難しいかもしれません。そんな場合は思い切ってダムフォンに切り替え、デジタルデトックスしてみてはいかがでしょう?