米国マクドナルドでチキンビッグマック発売!背景にある“チキンサンドイッチ戦争”とは

末永 恵

米国マクドナルドでチキンビッグマック発売!背景にある“チキンサンドイッチ戦争”とは

全米のマクドナルドで“チキンビッグマック”販売開始

10月半ば、全米のマクドナルドで『Chicken Big Mac(チキンビッグマック)』が発売となりました。その名の通り、牛肉のパテの代わりに鶏肉のパテを揚げたものが2枚と、レタス、チーズ、ピクルスが入り、オリジナルのビッグマックと同じソースが使用されているとのことです。日本でおなじみのチキンタツタバーガーにちょっと近いかもしれませんね。
チキンビッグマックは実は完全な初登場ではなく、過去にUK・カナダ・オーストラリア、米国では2022年にマイアミなどでのテスト販売を重ね、今回満を持しての全米展開となりました。マクドナルドによるとチキンビッグマックは期間限定メニューで、在庫がなくなり次第終了するとしています。
マクドナルドはインフレや不買運動の影響を受け2024年上期の売上が低迷。下期はなんとか持ち直すことを目指し好評の5ドルセットを年末まで延長するなどして対応に追われていますが、チキンビッグマックが回復の起爆剤となるかどうか注目されます。

 

アメリカ外食業界は空前の”チキンサンドイッチ”ブーム

ここ数年、アメリカはチキンサンドイッチブームにあります。火付け役はChick-fil-A(チックフィレイ)だったと言われていますが、KFC(ケンタッキーフライドチキン), Shake Shack(シェイクシャック), Wendy’s(ウェンディーズ), Burger King(バーガーキング)、Popeyes(ポパイズ)などほとんどのファストフード店がチキン系のハンバーガーをメニューに置いて客を取り合うまさに“チキンサンドイッチ戦争”状態です。マクドナルドがチキン系のバーガーを発売したのも今回が初めてではなく、”McCrispy”や”McChicken”など以前から存在するメニューもあります。しかし今回フラッグシップ商品であるビッグマックのチキンバージョンを出したことは、チキン系メニューがいかに重要になってきているかを表していると言えます。
ちなみに、お店のチキンサンドイッチの鶏肉はほとんどが揚げられたものですが、“フライ”というワードはあまり使われず、近頃は代わりに”Crispy”や”Battered”などが使われます。これは揚げ物は健康に良くないという認知がアメリカでもかなり進んでおり、“フライドチキン”という呼び方を避けるためです(実際は揚げているので同じことですが)。
チキンサンドイッチの波が押し寄せているのはファストフードチェーンだけではありません。コンサルティングファームのTechnomicのリサーチによると、調査対象となったレストランの47%のメニューにチキンサンドイッチが載っており、一方のハンバーガーは41%で、チキンサンドイッチが上回ったという結果が出ています。別の調査会社のCircanaによると、実際にオーダーされる回数が多いのはやはり普通の牛肉のハンバーガーとのことです。ではなぜこんなにもメニューにチキンサンドイッチが多いのか?それは鶏肉ブームの背景となっている事実にレストラン側が気づき始めたためと指摘しています。「ハンバーガーは重すぎる、でもサラダでは物足りない」そういう客層が一定数存在し、彼らに店に足を運んでもらうために最適なのがチキンサンドイッチだったというわけです。

 

Z世代を中心に広がる牛肉離れ

このブームはアメリカで進行する“牛肉離れ”の大きな流れの一部と言えます。USDA(United States Department of Agriculture=アメリカ農務省)の報告書によると、アメリカでの1人当たりの牛肉の消費量は70年代半ばをピークに減少が続いています。豚肉はほぼ横ばい、魚介類はやや上昇傾向、そして鶏肉は40年代以降急速に伸び続けており、過去10年以上すでに牛肉の消費量を上回っています。

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大きな理由としては価格と健康志向の高まりが挙げられます。鶏肉はほとんどの場合牛肉よりも安価で、栄養的にも体に良いとされています。ただしレストランやファストフード店で提供されるような、フライにされてマヨネーズやソースがたっぷりかかった食べ物が健康的と言えるかどうかは疑問で、それに人々が気づいているかどうかは微妙なところです。
別の視点として、このチキンサンドイッチブームを牽引しているのはZ世代と見られています。Bloombergの記事によると、Z世代の若者は価格や健康志向を理由に鶏肉を選んでいるわけではなく、純粋に他の肉よりも鶏肉が好きなのだとされています。彼らはチキンが入っているサンドイッチやタコスをいろいろなソースにつけて食べることを好むそうで、肉質よりも食べ方のバリエーションを楽しんでいるのかもしれません。

 

冷凍チキンナゲットに見るアメリカの光と影

数ヶ月前、TikTokインフルエンサーの@thehealthywifeが「チキンナゲットは私が子どもたちに絶対出さない食事です」と市販品を批判しました。代わりに健康的な手作りナゲットとして、鶏胸肉をフードプロセッサーで細かくするところから作り上げるレシピ動画には50,000いいねが付きました。
市販の冷凍チキンナゲットは昨年、アメリカ国内で20億ドルを売り上げました。世界的にもその需要は伸び続けており2032年には465億ドルに達すると予測されています。一方で、冷凍チキンナゲットは健康的な食べ物ではなく、子どもに与え続けるのは育児放棄・虐待にあたるとしばしば批判されます。しかしそのような批判には、背景にあるもっと大きな問題が見過ごされていると専門家は言います。

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冷凍チキンナゲットは確かに体に良くはありませんが、安くておいしいのは事実です。低所得の、特に幼い子どもがいる世帯にとってそれは貴重な存在になります。旅行、外食、ショッピング。金銭的に余裕のない家庭では子どもに何かおねだりをされてもほとんどの場合「ダメ」と言わざるを得ない状況の中で、食べ物は「いいよ」と言ってあげられる数少ない機会です。そしてチキンナゲットは大半の子どもが喜んで食べ、食品を少しも無駄にできない家庭にとってはありがたいものなのです。
また低所得層に限らず共働き世帯が増えていることで、毎食きちんとした食事を準備するのが難しいという時間的な問題もあります。増え続ける鶏肉の消費は、アメリカ人のライフスタイルや世相の変化を反映しているのかもしれません。