アメリカ大手テック企業で進む大量レイオフの流れ
米アマゾンが今週から、1万人のレイオフ(整理解雇)に着手することが報じられました。ホリデーシーズン直前で、例年であれば雇用を増やす時期での大量解雇に、アメリカでもやや驚きの声が上がっています。
レイオフは日本語訳を調べると「再雇用を前提とした一時解雇」などと定義されているようですが、実際に現地で見ていると再雇用を前提にしているようにはあまり思えません。どちらかと言うと、リストラのほうがイメージは近いかもしれません。
このアマゾンのニュースの少し以前から、アメリカでは大手テック系企業において大型レイオフが相次いでいます。詳細な事情は各企業により異なりますが、大きな理由としては金利の上昇と景気後退を目前にして株価が下がり、業績を圧迫していることです。
直近でのアメリカテック系企業大型レイオフ
- Meta(メタ ※Facebookの親会社):11,000人の解雇 – 従業員の13%
- Twitter(ツイッター):3,700人の解雇 – 従業員の50%
- Amazon(アマゾン):10,000人の解雇 – 従業員の1%未満
- Lyft(リフト):700人の解雇 – 従業員の13%
- Stripe(ストライプ):1,100人の解雇 – 従業員の14%
- Redfin(レッドフィン):862人の解雇 – 従業員の13%
- Salesforce(セールスフォース):1,000人以下の解雇予定
- Microsoft(マイクロソフト):約1,000人の解雇 – 従業員の1%未満
- Robinhood(ロビンフッド):従業員の23%の解雇 – 従業員の23%
- Coinbase(コインベース):1,100人の解雇 – 従業員の18%
- Cisco(シスコ):4,000人の解雇 – 従業員の5%
Post-Pandemic(アフターコロナ)とプライバシー規制に苦慮するFacebook
全従業員の13%にあたる11,000人のレイオフに着手するMetaは、CEOのマークザッカーバーグが公式ブログでコメントを発表しています。
「コロナが始まった頃、世界は急速にオンライン化し、Eコマースの急増で収益が桁外れに伸びました。多くの人が、これはパンデミック終了後も続く恒久的な加速度的成長であると予測しました。私もそう考え、投資額を大幅に増やす決断をしました。しかし残念なことに、これは私の期待通りにはいきませんでした。オンライン購買はパンデミック前のトレンドに戻っただけでなく、マクロ経済の悪化、競争の激化、オンライン広告媒体のシグナルロスなどにより、当社の収益は私の予想をはるかに下回るものとなってしまいました。これは私の見誤りで、その責任は私が取ります。」
”オンライン広告媒体のシグナルロス”は主に、アップルのiOSデータプライバシーアップデートによってiPhoneユーザーのトラッキングが難しくなり、FacebookやInstagramでの広告パフォーマンスが正確に計測できなくなったことを指しています。このiOSデータプライバシーアップデート以降、広告主の流出に歯止めが掛かっておらず、その影響は2022年だけで100億ドルの損失と推定されています。
イーロンマスクのスタンドプレーに揺れるTwitter
先月のイーロンマスクによる会社買収以来、ずっと激震に見舞われているのがツイッターです。全従業員のほぼ半数にあたる3,700人を解雇した上に、5,500人の契約スタッフのうち、4,400人をカットしたと言われています。しかもその多くの契約スタッフが事前に知らされておらず、ある日突然、ツイッターのシステムにアクセスできなくなったことで契約の終了を知るという、かなり一方的なやり方が断行されているようです。
一方で、ツイッターは以前から収益構造の問題や他のSNSプラットフォームに比べ競争力の無さなど深刻な課題を抱えており、イーロンマスクの行動はビジネスとしては理に適っているかもしれません。一気に大量の現場スタッフがいなくなったことで内部は混乱状態に陥っているようですが、その過渡期を経てツイッターがどのような形に変貌を遂げる(または市場から退場する)のかは楽しみに見守りたいと思います。
さて冒頭のAmazonに話を戻しますと、今回のレイオフは主に音声検索のAlexa部門を縮小し、より小売り事業に力を入れるためと言われています。1万人は確かに数として多いですが、全世界のAmazon社員150万人においては1%にも満たず、今回の解雇は業績悪化などの危機的なものではなく、より大きなビジョンを描くための必要処置と捉えたほうが正しいでしょう。必要なときには素早く雇用し、役目を終えたら解雇する。ドライなようですが、この新陳代謝の速さが、アメリカ企業の成長を牽引しているのだと思います。