世界最大のコンビニをオープンしたアメリカのガソリンスタンド“バッキーズ (Buc-ee’s)”
世界最大のコンビニエンスストアが誕生
今月6月10日、アメリカテキサス州のLulingにバッキーズ(Buc-ee’s)が世界最大となるコンビニをオープンしました。その広さはアメリカの一般的なコンビニエンスストアのおよそ30倍の75,000平方フィート。これは約6,968平方メートルに相当し、サッカー場のほぼ1面分に近いサイズです。コンビニとガソリンスタンドが併設されているこの巨大店舗では、ガソリンの給油機も120機を備えています。
アメリカのガソリンスタンドは日本と同じように小さなショップを併設しているケースが多いですが、中にはもう少し進化した施設を併設しているチェーンもあります。ビビッドな黄色と赤の外観が目印の“Love’s”は主に長距離ドライバー向けにトラベルセンターを併設しています。ニュージャージーやペンシルバニアなど北東部を拠点とする“Wawa”は店内にデリを持ち、作り立てのサンドイッチやハンバーガーを販売しています。またセブンイレブンも2021年にガソリンスタンド大手の“Speedway”を買収しスタンド併設の店舗数を増やしてからはクリーンで安全な店舗づくりを目指し、従来の路面店の危険・汚いというイメージを刷新しようとしているようです。バッキーズもコンビニを併設するタイプのガソリンスタンドですが、特にそのサイズが巨大であることで知られています。
バッキーズ(Buc-ee’s)とは?
バッキーズの創業は1982年。創業者で現在もオーナーのArch Aplinがテキサス州のLake Jacksonに1号店となるガソリンスタンドをオープンしました。店の名前はAplin氏の子どものころのニックネーム“Bucky Beaver”に由来し、ロゴにもビーバーが使用されています。テキサスのA&M大学で建築学を学んだAplin氏はその当時「いつか摩天楼を作りたい」と考えており、大きなものを造ることに元々関心があったようです。
2024年6月現在、バッキーズはアメリカ国内で50店舗を展開しています。そのうち36店舗はテキサスにあり、他の店舗はフロリダ・アラバマ・ジョージア・テネシー・サウスカロライナなど基本的には南部の州がほとんどです。今後はバージニア・ノースカロライナ・ミシシッピ・アリゾナなどに出店を計画しているようで、全米への拡大を視野に入れている様子が見られます。
バッキーズのブランドマーケティング
順調に拡大を進めるバッキーズですが、特に注目されるようになってきたのはここ数年のことです。他州への進出が本格的に始まったのは2019年のことで、それまでは地元民に愛されるテキサスのローカルブランドでした。ブランド認知が広がった背景にはバッキーズ独自のマーケティング戦略があります。
■他のガソリンスタンドにはない店舗体験
バッキーズの店舗に足を踏み入れると、まるでホームセンターのような広々とした店内に「これがコンビニなのか」と圧倒されます。バッキーズはきれいなトイレを提供することにもこだわりを持っており、過去に“全米で最も清潔なトイレ”として受賞したこともあります。
ガソリンスタンドと言えば従来は給油やトイレ休憩のために仕方なく立ち寄る程度だったところを、バッキーズなら「きれいで広々としたトイレ」「多彩なフード」「並ぶ必要のないガソリン」を目当てにぜひ立ち寄りたい存在になっており、ガソリンスタンドに寄るというありきたりになりがちな体験を特別なものにしています。日本の大型サービスエリアに近い存在かもしれませんね。
■マスコットキャラを全面に押し出した数々のオリジナルグッズ
「バッキーズという名前は知らないがビーバーのロゴを見たことがある」という人も多いかもしれません。あのビーバーは“バッキーちゃん”という名前のマスコットキャラクターで、時々店内で写真撮影会も行われる人気ぶりです。
店内ではバッキーちゃんの商品が販売されており、Tシャツ・キャップ・タンブラー・パーカー・キャミソール・子供服・レジャー用品・ぬいぐるみなどのオリジナルグッズから、スナック菓子や缶詰・瓶詰などの商品パッケージにもすべてプリントされており、バッキーちゃん一色といった様相です。大型ガソリンスタンドというとどちらかと言うと長距離ドライバー向けの施設になりがちなところを、家族向けの親しみやすいブランドイメージを作り出しています。
■やっぱり、サイズ
他にもOOH(屋外広告)重視型の広告戦略や平均より高めの従業員給与などさまざまな違いはありますが、やはりなんと言ってもバッキーズと言えばその巨大さでしょう。バッキーズが初めて世界最大のコンビニの記録を樹立したのは2012年ですが、その後も巨大な店舗を作り続け記録を更新し続けています。私も実際バッキーズの店舗に行ったことがありますが、あれは確かに誰かに話したくなるほどの広さです。そんな口コミの力も大きく働いているのだと思います。
コンビニでありながらブランド
バッキーズはガソリンスタンド兼コンビニでありながら独自のブランド力を持ち、他のアメリカのコンビニチェーンとは異なる立ち位置を築いています。この点は“小売りでありながらブランド”というトレーダージョーズに似たようなイメージを感じます。
創業者のArch AplinとビジネスパートナーのDon Wasekは今でも100%会社を保有しており、株式公開やフランチャイズ制を取っていません。このようなオーナーとしてのブランドへのこだわりが、バッキーズを堅実な成長に導いているのは間違いないでしょう。